厚いのに柔らかい!
牛たんの隠し包丁、キッパ
職人が一枚ずつ、包丁の先で入れる切れ込み。仙台の厚切りを支える仕込みの話です。
喜助の牛たんをよく見ると、表面に細かい筋が何本も走っています。実はこれ、飾りではなく、職人が一枚ずつ包丁の先で入れた切れ込み。キッパと呼んでいます。仙台の牛たんが厚切りなのにサクッと噛み切れるのは、この仕込みのおかげです。今回は、ふだんなかなかお見せしない包丁仕事の話です。
牛たんの表面に走る、無数の筋
お店の焼き台から上がってきた牛たんにも、通販でお届けする牛たんにも、表面には細かい切れ込みが入っています。仙台牛たん振興会も、専門店の牛たん焼きの特徴として「皮むきからスライス、キッパ(切れ込み)つけまで全てを手作業で行う」ことを挙げています。切れ込みはいまや仙台牛たんの代名詞と言っても過言ではありません。
ではなぜ、わざわざ一枚ずつ包丁を入れるのか。答えは牛たんの誕生の歴史に遡ります。
隠し包丁という、和食の知恵
ふろふき大根の裏に入れる十字の切れ目。煮しめの椎茸に入れる飾り包丁。和食には、火の通りと味の染み込みをよくするために、見えないところへ包丁を入れる技があります。隠し包丁です。
キッパは、この隠し包丁の牛たん版です。硬い繊維を断ち、熱と味の通り道を作る。素材に手を加えて最高の状態で出すという日本料理の考え方が、そのまま牛たんにも生きています。
厚切りを守るための発明
牛たんは、そのまま厚く切って焼くと、簡単には噛み切れない硬い肉です。薄く切れば楽になりますが、それでは仙台の牛たん焼きになりません。
この難題に向き合ったのが、仙台牛たん焼きの生みの親、佐野啓四郎氏でした。山形出身の調理師だった佐野氏は、牛たんを日本人の口に合う料理にしようと試行錯誤を重ねます。切れ込みを入れて繊維を断つ仕込みも、その中で生まれたと伝えられています。硬いから薄く切るのではなく、包丁の仕事で厚切りのまま食べられるようにする。仙台の牛たんが70年以上厚切りを守ってこられたのは、この発明のおかげです。
佐野氏と太助、そして喜助のつながりは仙台牛たんの歴史でご紹介しています。
炭火とキッパの、火の通り道
キッパの働きは、柔らかさだけではありません。
お店の焼き台で牛たんを炭火にかけると、切れ込みの一本一本から直火の熱が中へ一気に入ります。表面を焼き固める前に中まで火が通るので、厚切りでも生焼けにならず、外は香ばしく、噛むとサクッと歯が入る焼き上がりになります。切れ込みには手ぶりの塩やたれも染み込んでいて、味の通り道も兼ねています。
お店で牛たんが運ばれてきたら、ぜひ一度眺めてみてください。
一枚ずつ、包丁で
キッパは、喜助の牛たんすべてに入っています。定番のしお味もたれ味もみそ味も、まろやかも厚切りも、そして生牛たんも、切れ込みを入れてからお届けしています。
なかでも看板商品の職人仕込牛たんは、数人の熟練職人が包丁一本で、一枚ずつ切り込みを入れて仕上げます。牛たんは一本ごとに厚みも脂ののりも違います。だから切れ込みの深さと間隔は、職人がその一枚を見て決めます。深すぎれば崩れ、浅すぎれば硬さが残る。この見極めがあるから、職人仕込は人の手を離れません。工場の仕込みの全体は潜入!喜助の工場 職人仕込牛たんができるまででご覧いただけます。
ご家庭で焼くときは、キッパの仕込みはもう済んでいます。しっかり解凍して、油をひかずに焼くだけで、切れ込みが働いてくれます。